第四篇 スレ違う2人
著者:shauna



 子供が数人路地裏を駆け抜けていった。
 一本の水路が通るそこは先程までサーラが迷子になっていた場所と同じ場所である。
 そんな路地裏から白い髪の少女が飛び出してきた。
 駆け抜ける子供を柔らかな笑顔で見送り、腕を後ろに組んで水路の脇の歩道をゆっくりと歩いていく。
 その姿は凄く景色に馴染んでいて、まるで一枚の絵のようでもあった。
 そして、その少女の後ろからゆっくりと水路を滑るゴンドラもまた、その光景を更なる高みへと上昇させていた。
 ゴンドラはこの町の云わば名物のようなモノだ。
 だた・・・
 こんな所を走っているのは明らかに場違いでそれが妙な違和感を醸し出しているのだが・・
 
 コツコツ・・
 キィキィ・・
 
 静かな路地裏にブーツが石畳を踏みしめる音とゴンドラを漕ぐ音だけが響いていた。
 場面に違和感を足している要素。
 それは、ゴンドラを漕いでいる男。その男も一風変わった格好をしていた。
 麦藁帽子に赤と白の縞のシャツと言うゴンドリエーレ特有の格好を彼はしていなかった。黒いマントで身を隠す黒い髪の男。仮面をつけている為、その顔すら分からないが、謝肉祭の時期でも無いと言うのに“ベルソナ”を付けているという時点でかなり異質だ。
 そして、それはゴンドラに乗せている女性にもそれは言えることだった。先程の男の仮面が青なのに対し、こちらは赤。しかみ通常集団で利用されるゴンドラにたった一人で乗っているのだ。
 「ねえ・・どう見る?」
 女がゴンドラを漕ぐ男に問う。
 「おそらくそうだ。・・・いや、伝説にある黒い狐の妖怪は雌。女の形態に化けてる所から見ても間違いはない・・・」
 「ってことは・・あれがオボロか・・・」
 2人がサングラスをかけるのはほぼ同時だった。
 もちろんただのサングラスではない。
 魔法使いや魔法生物の変身を無抜くことのできる魔道メガネ。かなりの高級品だ。
 サングラスをかけて、まるで赤外線カメラで除いた時みたいな緑色の視界に白い影で歩いていた少女の本当の姿を暴き出す。
 4本の脚。異様に長い尾。顔の辺りに美しく入った青の模様。

 それは間違いなく一匹の狐だった。
 1000年以上の時を得て進化した伝説クラスのモンスター。天弧。
 
 ヒュ〜・・・

 男の方がイタズラっぽく口笛を吹いた。そして・・
 「どう?勝てる?」
 女に静かに聞いた。
 「舐めないでよ。」
 女は不敵に笑う。
 「私は”幻影の白孔雀”なんだから・・・」
 ゴンドラはゆっくりと岸に接岸する。
 そして女はゆっくりと底から先程の路地裏へと降りた。
 目の前には先程の少女・・・いや・・狐が不思議そうな顔でこちらを見つめている。
 そんな狐に対して女はニヤッと笑い・・
 
 「彼女・・ちょっとお茶しない?」
 
 と声をかけた。狐は苦笑いをして手を振る。
 断られてしまった。
 「そんなつれないこと言わないでよ・・・オボロ・・・」
 女がほんのりと聞きなれない名前を出したその時・・目の前の狐は明らかに怯えた表情を見せた。
そして・・・
 すぐにこちらに背を向けて逃げようとする。
 まあ、当然ここまでは予想通りの動きだ。
 女は地面に向かってペイントボールを投げつける。石畳の地面に広がる黄色の水性塗料。
 
 女はその上で履いている高いヒールを感じさせない程軽やかなステップで舞い踊る(ダンス)。
 
 スリ足でするそのダンスはまるでフィギュアスケートのようにも見える。 
 
 そして、女がフィニッシュのポーズをとった時、地面にはある図形が出来上がっていた。ヒールの踵で地面の塗料を上手くコントロールし描いた図形。円の中に逆十字と悪魔の羽を模した魔法陣だ。
 「魔族召喚(サモン・デモン)!」
 女はそう叫んだ。
 同時に地面から飛び出す数匹の最下級魔族エビル・デーモン・・・。
 命令されるでもなく、彼らは目の前の狐に襲いかかる。
 狐も必死に逃げてはいるが、何分今は少女の姿だ。デーモン達の方が何倍も速い。すぐに追い詰められてまわりを囲まれてしまった。
 「捕まえて・・・」
 女の命令に従ってデーモン達は狐に襲いかかる。少女の形を保ったままの狐はただただ怯えるしかなかった。静かに目を瞑って―助けて!―と願う。
 
 ―バンッ!!―
 
 何かのはじけるような音と共にデーモン達が宙を舞った。

 「何!?」
 
 驚く女。そんな馬鹿な・・・いくら天弧とはいえ、少女の形態ではロクに魔法も使えないことは調査済みだ。なのに・・・何で・・

 「ったく・・・ハクが騒ぐから来てみれば・・」
 
 吹き飛ばされたデーモンの間に金色の長髪が揺れた。
 
 「女の子に向かってなにしてんだコラ・・・」
 
 一人の男がそこにはいた。長い金髪。黒い鎧と肩当て・・。手にはエアブレード・・・。肩には小さな狐を乗せている。まさか・・・・ 
 「うそ・・・ファルカス・ラック・アトール?」
 女がその名を口にした。
 「おいおい・・ファルカスってあの?」
 男が驚いたようにガタッとゴンドラを揺らす。
 「・・暗闇の牙(ダーク・ファング)の幹部の一人・・」
 若干焦った様子で女が怯む。
 「へ〜・・俺のこと知ってるのか?」
 「あんた裏社会じゃそこそこ有名人だしね・・。モンスター相手じゃ負けなしの実力者・・。噂じゃ同じ暗闇の牙(ダークファング)幹部の召喚術士を倒したって聞くけど・・・」
 「なるほど・・裏の情報は回るのが早いな・・・」
 呆れたようにファルカスは肩を揺らした。
 「悪いけど・・引っこんでてくれない?私はそいつに用があるの。」
 デーモンを一旦自身の周り集め、仮面の女はファルカスに言う。
 言われた本人はただただ笑みを深めた。
 「そうしたんだけど、こっちにも事情があってな。」
 ファルカスはそう言って親指で後ろにかくまっている白い髪の少女(狐)を指差す。
 「こういうこと見過ごすと後でうるさい医者がいるんでね。譲るわけにはいかない。」
 「あんた・・その子が何なのか知ってるの?」
 「この子が例え魔王でも、困っているのなら見過ごせない。それにこの子にはさっき世話になったし・・・」
 「そうかい・・なら・・・」
 女は勢いよく手を振り上げる。
 そして・・・
 「行きな!!」
 言葉と同時に手を振りおろした瞬間。3体のエビルデーモンが一気にファルカスを襲った。
 ファルカスの眉間にも皺が寄る。

 仕方ない。戦闘開始だ。

 「・・・―この世に再び具現れし聖なる―・・・」

 詠唱の途中で袖を引っ張られてファルカスは振り返る。
 引っ張ったのは当然後ろに居た少女だ。
 「何だ?」
 ファルカスがそう問いかけると少女はイヤイヤというように首を横に振る。
 その時初めて気が付いた。
 ここには住居がある。遊んでいる子供達もいる。
 こんな所で魔法戦なんて・・・・
 止めてくれなかったらと思うと背筋がゾッとした。
 デーモン達がファルカスに襲いかかる直前・・・
 「来い!!」
 ファルカスは少女の手を引き走り出した。
 「追って!!」
 女が命令する。
 後ろから追って来るデーモン達・・。
 それには目もくれずファルカスは路地裏からさらに細い道へと逃げた。
 一つ目の路地を左に・・・そして段々と細くなっていく路地を少女の手を引いたまま、ひたすらに駆け抜ける。
 ある程度言った所で今度は右に・・・すぐに突き当たって今度は左・・・緩やかに弧を描く路地をひたすら突き進む。
 デーモン達の姿は見えない。だが、探していることは間違いない。
 橋を渡って、会談を降りるとそこは狭い広場だった。
 道は5本にわかれている。でも、余り悩んでいる時間もない。
 今来た路地から響くデーモン達の足音は近くはないがそれほど遠くもない。
 「えっと・・・」
 ファルカスがキョロキョロと5本の路地を見回していると・・

 「えっ!あっ!おいっ!!」

 今まで手を引いてきた少女に逆に手首を掴まれそのまま右の路地へと共に入った。
 階段を昇り、舗装されてない道を通って、小さなトンネルをくぐり、左へ。その先に大きなテラスが見えた。
 左右に大階段があるその先には・・・・
 オープンカフェ状のレストランが広がっていた。
 しかも・・そこには・・・・

 「・・・サーラ・・」
 何やらちょっとイケメンな男と何気なく楽しそうに話をするサーラの姿が・・・・
 「これはいったい・・・」
 とファルカスは隣に居るはずの少女に問いかけたのだが・・・
 「あ・・れ?」
 キョロキョロと見渡せどどこにも少女の姿はない。
 まるで煙みたいに消えてしまった。
 「どこいったんだろ・・・・」
 どうにも、不思議な気分だが、少なくとも今の気持ちを一言で体現するなら・・・

 「あ!ファル〜!!」
 サーラの声がレストランの方から聞こえてきた。
 「この後港に行くよ〜!!その後、大聖堂〜!!ロビン君が案内してくれるから〜!!」


 「・・・・・・」
 

 気に入らない。 

       ※    ※        ※

 2
 気に入らない・・・ああ、気に入らない。
 「ここがフェナルトアリーナです。フェナルトシティは世界最大クラスの貿易港としても栄えていまして、世界各国、古今東西の一流の商人がここに集まります。そのため、商業がものすごく盛んで、観光産業と共にこの町を支える巨大産業になっています。」
 気に食わない。
 「うわぁ〜・・・スッゴイ綺麗。」
 目の前に広がる巨大な物から中型のものまで様々な帆船に目をキラキラさせているのはサーラ・クリスメントだ。
 確かに超巨大な帆船がその大きな帆を広げている姿は壮観以外の何物でもないが・・・
 「中でもラズライト・ホテルズという会社が最近始めた魔道機関を搭載した客船”ゴールデン・ハインド号”と”ソブリン・オブ・ザ・シーズ号”の2隻によるラズライトクルーズラインは現在観光産業において最高の人気を誇っており、半年先まで予約が一杯だそうです。」
 そもそも、この説明している奴は何者なんだ。
 「へ〜!!どの船どの船!!?」
 「あの一番奥に止まっている紺色の金の装飾がされている船と深緑に銀の装飾がされている船です。」
 それにその説明を熱心に聞いているサーラもどういうつもりなのだろう・・・。
 「内部の部屋は総じて豪華なスイートルームで、海族に襲われた時のことも考えて80を超える砲門も搭載されてます。」
 「すっご〜い!!流石フェナルトね!!観光名所だけあるわ・・・」
 確かに豪華で凄いし、乗ってみたいと思うが、そんな綺麗は帆船を見てもファルカスの機嫌が治る事は無かった。
 ああ!!ムカつく!とにかくムカつく!!
 「では次に大聖堂の方へご案内しましょう。」
 「うん、お願いね!!」
 一通り駅の見学を終えた2人はそのまま大聖堂へと足を向けた。
 ファルカスも仕方なさそうに腕組みをしながら後を付いていく。


 
 この町の大聖堂は本当に規模が違った。
 濃緑の屋根に石造りの外壁を持つそれは窓に大きなステンドグラスがはめ込まれて昼時の今、一層の輝きを放っていた。

 当然、内部の造りだってすごい・・・回廊には彫刻が施された柱が一列に通路の両側に並び、すごく高い天井を支えている。
 「すごいね〜・・・フェナルトの大聖堂・・・噂には聞いていたけど・・まさかこんなにすごいなんて・・・」
 手を合わせながら眼を光らせ、辺りを見回すサーラ。
 その後ろに控えているのは案内役のちょっとイケメン・・・ロビンだ。
 ファルカスはというとその数メートル後ろで腕組みをして不機嫌そうに顔を歪めている。
 ああ!!ムカつく!!
 「ねえ!ロビン君!!あの壁画って何!?」
 「ああ・・天地創造ですよ・・歴史の教科書とかには必ず出てきますね・・・」
 「なるほど・・道理で見たことあると思った!!」
 そんなファルカスをよそにサーラとロビンはものすごく楽しそうだ。そう・・・まるで付き合って今日が初デートの恋人同士みたいに・・・それがまた、ファルカスの腹の虫を暴れさせるのだが・・・
 「キャー!!!すっご〜い!!!アレ何〜!!!!!!」
 そんなファルカスをよそにサーラは聖堂の一番奥に置かれている・・いや、設置されているあるモノに興味津津の様子だった。
 「ロビン君!!これ何!!」
 それは見上げる程もある超巨大なパイプオルガンだった。まるでオペラ座のようなとてつもなく細かく雅やかで優雅な金の装飾とその装飾を額にするように突き出すパイプ。
 鍵盤は3段になっており、その全ての黒と白が逆だった。つまり通常鍵盤が黒でシャープ鍵盤が白・・・それだけでもこのオルガンが珍しいことを示している。
 そして、その鍵盤はまるで奏者の座る椅子を囲むように半円状になって配置されている。
 ものすごく大きく、それでいて荘厳で、美しい・・・褒め言葉の二つ三つ並べてもこの美しさを上手く表現するのは難しい・・・
 「インフィニットオルガン・・・」
 ロビンがその名を口にした。
 「伝説によるとこのオルガンがこの町を救った道具らしいんです。御伽話では水の証という宝石を演奏台の中央の台座に配置することで多大なる力を得ることのできるスペリオルだとか・・・」
 「スペリオル?こんなに大きいスペリオルがあるの!?」
 「でも、水の証が無い今はただのパイプオルガンです。今日の午後五時から演奏がありますよ?よろしければ聞きにきませんか?」
 「うわ〜!!聞きたい聞きたい!!ねぇ、ファル・・・」
 「・・・・・」
 「ファル?」
 嬉しそうにはしゃぐサーラに向かってファルカスは何も答えない。変わりにどんよりとした冷たい視線を送ってやった。
 
 「・・・・・・」
 
 「・・・・・・」

 一気にムードが険悪になる。
 

 「ファル・・・言いたいことあるならハッキリ言いなよ・・・」


 「心が読めるサーラ様はとっくにお見通しなんじゃないのか?」

 「口で言った方がスッキリするでしょ・・・」

 何の表情もない顔でそう言われてファルカスの我慢も限界に達した。
 


 「いい加減にしろ!!!!!」

 祭りということもあり、人気の多い大聖堂にファルカスの声が響く。ずっとファルカスの肩に乗っていたハクも驚いてサーラのローブの袖へ飛び込んで身を震わせた。
 「何なんだよ!!人にハク探させておいて自分は男を逆ナンしてレストランで一緒に飯食ってるってどういうことだ!!おまけにそいつと楽しく市内観光だ!?フザケンな!!こっちは必死こいてハク探してたってのに飼い主は男と食事かよ!!」
 「私はこの人の計画に協力したいだけ・・それはさっき話したよね・・。」
 「ああ、聞いたさ!!」
 ファルカスが大きく一歩前に踏み出してロビンを指差す。
 「サーラが欲しい物を持ってるかもしれないからこいつと組んでその幻影のなんたらを捕まえるってんだろ!!」
 「そう言ったけど・・・わからなかった?」
 「ナメんな!!!」
 ファルカスの顔が真っ赤に染まる。
 「俺に黙って一人で何でも決めやがって!!!なんだ!!お前はそんなに偉いのか!?ハクのことも今度のことも!!もう完全に頭キタ!!」
 「・・・・・・」
 サーラが僅かに目を伏せる。
 「どうせあの男と一緒に居たいんだろ!!何が作戦だ!!何が欲しいものがあるだ!!だったら、そう言えばいいじゃないか!?」
 「・・・・・・言いたいこと・・・それだけ?」
 「まだある!!他にも・・・・・・」
 この前も・・と言おうと思った所でファルカスの声が途切れた。
 それは別に怒りが収まったからでは無い。
 インフィニットオルガンのある聖堂の二階の回廊部分。そこに一人の女の子の姿を見つけたからだ。
 長い純白の髪。先程と同じ桜色のブラウスに今度は臙脂の袴のようなズボンを合わせているが、間違いない。
 先程出会ったあの女の子だ。
 サーラもファルカスの目線に気が付き後ろの2階回廊を振り返る・・。
 「ファル・・・あれ誰・・・」
 「誰って・・・」
 「手・・・握ったんでしょ・・・知らないってことないよね?」
 どうしてそれを・・と思った瞬間ファルカスの脳裏に先程の自分の言葉が過った。そう・・サーラは心が読める。手を握った時の感触とそれを含めた先程の一連の出来事をサーラはすでに読み取っていた。
 「誰だっていいだろ!!それより!!」

 「良くない!!」
 
 サーラが珍しく大声を上げた。
 その瞬間も二階の回廊を気にしてしまう。すでに少女は一連の展示物を見て聖堂を後にする所だった。
 しかし、あの少女・・・どこかで・・・いや、考えすぎかもしれないが・・・
 でも一応話ぐらいはしてみたい・・・。
 「話してみたいんでしょ・・・」
 再び心を読んだサーラが厳しく言う。
 「行けば!!いいよもう!!ファルには頼まない!!今回は私とロビン君二人だけで片付ける!!手柄も欲しいものも全部私が独り占めする!!」
 「なっ!・・・にを・・・」

 「わかった!!ファルなんか大嫌い!!ロビン君の方がいい!!優しくて物知りでカッコイイロビン君の方がいい!!」

 その言葉を聞いた瞬間・・・
 ファルカスの中で何かが砕け散った。

 「ああそうかよ!!勝手にしろ!!」
 そう言ってファルカスはズカズカとサーラに背を向けて大聖堂を後にした。
 後ろから睨みつけるサーラ・・・。その袖からハクが飛び出して
 「ハク!?」
 ファルカスを追う。
 「もう!!どいつもこいつも!!」
 こんなに激しく怒りを露わにしたサーラは生涯これ一度きりだったかもしれない。


 

 大聖堂の外に出てファルカスは辺りを見回した。
 肩に飛び乗ったハクが不意に耳を甘噛みする。
 「って・・・なんだハク・・・」
 そう言った瞬間だった。
 大聖堂の前の大通り・・・そこに先程の少女は居た。
 「ナイス、ハク!!」
 ファルカスは慌ててその後を追いかける。
 街の中央を流れる大運河の橋を渡り、そのまま体を路地に滑り込ませた。地面にチョークで落書きがしてある路地を曲がった時、一人の老婆とぶつかりそうになったが、それに対しても「すいません」と走りながら謝って少女の後を追いかける。
 そして、やっと小さな橋の向こうに彼女の姿を見つけた。
 良く見ると先程とは違い、服の上に薄いレースのストールを付けている。

 「なあ!ちょっと!!」
 
 少女が足を止める。
 「さっきはどうしていきなり居なくなったんだ?」
 「・・・・何のことですか?」
 ファルカスの質問に少女は軽く首をかしげて再び歩きだす。

 あぁ!もう!!
 
 ファルカスも慌てて後を追った。再び路地・・・。
 っと・・・四つ辻でファルカスは足を止めた。どっちに行けばいいのか分からない。あたりを懸命に見回すが少女の姿はどこにもなかった。ック・・・マカれたか・・・。
 
 感で左に進んでみる。
 しばらく進むと運河に出た。しかもここは・・・
 「さっきのトコだ・・・。」
 図らずもあの少女と初めて会った場所だった。
 「ああ・・・また迷った・・・これじゃあアスロックを笑えないな・・・」
 少女も見失ってさらに道にまで迷うなんて・・・
 まったく!!今日はとことんツイてない!!そう思った矢先・・・
 
 再びハクが今度は左の耳たぶを甘噛みする。
 
 「ん?」
 ハクが示してくれたその先・・・そこには先程の少女が居た。
 近くにあった橋の手すりに凭れかかりながら緩やかな笑顔でこっちを見ている。
 
 「どういうつもりだ?」
 
 ファルカスがそう呟くと少女はまるで仰ぐかのように手を振った。
 まるでこっちに来いと誘っているみたいだ。
 少女は再び逃げる。
 その後を再びファルカスが追った。
 橋を越えて細い路地に入り込む。
 少女は時折足を止め、ファルカスの方を振り返った。
 まるで鬼ごっごでもしてるみたいだ。
 高い建物のせいで光が入らない路地を抜けてそのまま左へ・・・
 植物で出来たトンネルを抜けるとそこは行き止まりだった。
 やった!追い詰めた!!
 壁を背にして少女は立っている。
 ファルカスは走るのをやめてゆっくりと彼女の元に歩み寄った。

 と・・・


 次の瞬間・・・

 少女が軽く地面を蹴って背後にバックステップ。
 当然壁に背中が当たるはず・・・いや・・・太陽の傾きで壁の丁度陰になっていた部分。そこに少女は溶けるように身を隠した。
 俗に言う壁抜けみたいだ。
 「えっ!!」
 ファルカスもこれには戸惑う・・・しかし、ピョンと飛び降りたハクがそのまま壁の中へと走り去ったのを見て確信した。
 入れる・・・。
 ファルカスは自分の身を壁の中へとゆっくり溶かしていった。



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